【解の構成方法】マスターデーモンの一般化
Amazon.co.jp: Yoshiki Ueoka:作品一覧、著者略歴
マスターデーモンの一般化
今回の記事では、マスターデーモンの一般化について考える。
「自然数rが与えられたとき、2以上ので
……(1)
が整数となるものを全て求めよ。」
結論から言うと、(1)式が整数になるような任意のを構成するアルゴリズムを求めることはできた。ところが、一般の自然数に対して、を一般的に表す公式を求めるのは極めて困難である。そのため、(1)式を満たす解が無限に存在するかどうかすらも難しい。この難しさは、素因数分解の難しさに関連するものなので、相当な「武器」を持ってこないと太刀打ちできないだろう。
また、この記事では、自然数は以上の整数であるとする。
今回の話のアウトライン
今回の記事のアウトラインは、次の通りである。
①:が偶数にならないこと
②:の最小の素因数が、の奇数の素因数のいずれかに一致すること
③:の最小の素因数の指数は、の対応する素因数の指数以下であること
④と⑤:③の証明
⑥:一般化されたマスターデーモンの解を構成するアルゴリズム
①②③を繰り返し用いることで、(1)式が整数になるを構成するアルゴリズムが得られる。
①が偶数にならないこと
が偶数のときは、(1)式の分子が奇数になるので、(1)式の分母は偶数ではない。よって、も偶数でない。
が奇数の時、が偶数と仮定する。すると、(1)式の分母はの倍数になるので、(1)式が整数になるなら分子もの倍数である。従って、
……(2)
ところが、は奇数なので、
……(3)
であるので、これを(2)式に代入すると、を偶数と仮定したことから、
……(4)
となるので、矛盾である。背理法により、が奇数のときも、は偶数ではない。
よって、(1)式が整数になるならば、は偶数ではない。
②の最小の素因数が、の奇数の素因数のいずれかに一致すること
の最小の素因数をとし、その指数をとする。すると、は、と互いに素な自然数を用いて、
……(5)
と表せる。(1)式の分母がの倍数になるので、
……(6)
である必要がある。フェルマーの小定理より、
……(8)
……(9)
また、フェルマーの小定理より、
……(10)
ここで、法をとしたときのの位数は、の約数になるが、はより小さい素因数を持たないので、
……(11)
である。よって、
または
……(12)
である。とすると、(8)式より、
……(13)
となるので矛盾である。従って、
……(14)
である。
よって、の最小の素因数は、の奇数の素因数のいずれかに一致する。
③の最小の素因数の指数は、の対応する素因数の指数以下であること
が次のように素因数分解されたとする。
……(15)
ここで、は1以上のある自然数で、は0以上の整数で、の内少なくとも1つはではない。
②より、の最小の素因数は、あるに対して
……(16)
である。なので、は次の形に因数分解できる。
……(17)
ここで、は、奇数に対して、
……(18)
と定義している。このように因数分解したとき、に対して、
……(19)
……(20)
……(21)
であることが示せる(後で、④,⑤で示す)。従って、は、でちょうど1回だけ割り切れるので、(15),(17)式より、
はで回だけ割り切れる……(22)
(1)式の分母は、で回割り切れるので、(1)式が整数であるためには、
……(23)
である必要がある。
特に、
は一般化されたマスターデーモンの1つの解となっている。
それでは、(19),(20),(21)式を示そう。
④、であること
フェルマーの小定理より、に対して、
……(24)
……(25)
である。(14),(18)式より、とが互いに素であることに注意して、
……(26)
……(27)
よって、(19),(21)式が成立する。
⑤であること
まず、より、
……(28)
であるので、を法とするとき、はの1次式で表せることに着目する。を自然数とするとき、
……(29)
と置くと、(29)式にをかけて、(28)式を用いることで、の漸化式を得る。
……(30)
……(31)
(31)式を(30)式に用いて、
……(32)
となるので、の一般解は、
……(33)
と表せる。となることから、を求めた後、
……(34)
……(35)
を得る。これより、
……(36)
ここで、と仮定すると、
……(37)
となるが、であったので矛盾。よって、
……(38)
……(39)
であるので、
に対して、
……(40)
が言えるので、を示すには、
……(41)
を示せば十分である。を示したときと同様にして、
……(42)
を得る。となったと仮定すると、(42)式にをかけて、
……(43)
これを満たす奇素数は存在しないので、矛盾。よって、
……(44)
以上をまとめて、に対して、
……(45)
が示せた。
⑥:一般化されたマスターデーモンの解を構成するアルゴリズム
①~③を繰り返し用いることにより、一般化されたマスターデーモンの解を構成するアルゴリズムが得られる。
とおき、(15)式のように、
……(46)
と素因数分解できたとき、あるを1つとり、
……(47)
とおく。すると、①~③より、次の個の自然数は一般化されたマスターデーモンの解になる。
……(48)
ここで、(48)式のそれぞれの解に対して、
……(49)
とおく。
ここまでを最初のステップとして、一般化されたマスターデーモンの全ての一般解は、以下のようなアルゴリズムにより構成できる。
が与えられ、
……(50)
と素因数分解できたする。(ここでは、式の見やすさの便宜上、(46)式と同じ記号を用いているだけで、(50)(51)式の素因数とその指数は(46)式とは別に定まるものである。そして、以下に現れるは全て(50)式のものである。)
このとき、となる素因数を1つ選び、
……(51)
とおく。そして、に対して、
……(52)
とおく。すると、
であれば、①~③より、(52)式で構成される全てのは一般化されたマスターデーモンの解となる。
最後に、
……(53)
とおき、同じアルゴリズムを繰り返すことで、一般化されたマスターデーモンの全ての解が得られる。(このことは、rを(53)式で繰り返し与え直して、①~③を繰り返し適用できることからわかる。)
このアルゴリズムが有限回で終われば、一般化されたマスターデーモンは有限個の解しか持たない。このアルゴリズムが有限回で終わるためには、のあらゆ取り方によって構成され得る任意の自然数の系列
……(54)
に現れる素因数の種類が有限であればいい。(これは素因数分解を前提にした話になっているので、これ以上立ち入って一般論を展開するのはかなり困難だと思う。)
特に、のときは、
となるので、上記のアルゴリズムは1回目で終了し、のときの解が3しか存在しないことがわかる。他にもいくつかので試してみる。
の場合は、
なので、解は存在しない。
の場合は、
より、などが解になるが、(54)式の系列に現れる素因数の種類が有限であるかは自明でないので、解の個数も自明ではない。
の場合は、
より、などが解になるが、これもまた、(54)式の系列に現れる素因数の種類が有限であるかは自明でないので、解の個数も自明ではない。
の場合も考えてみると、
より、などが解になることがわかる。この場合も解の個数は非自明である。
最後に、以上のアルゴリズムから次の系が導かれることを指摘しておく。
(i) が奇数の素因子を持たないとき、一般化されたマスターデーモンは解を待たない。
(ii) が奇数の素因子を持つとき一般化されたマスターデーモンは解を持ち、そのうち最小の解は、の最小の奇数の素因子に一致する。
*1:より、とは互いに素なので、とも互いに素。