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【その2】特異点のある関数の2点漸近展開に対する総和法【多項式型】

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特異点

この記事は前回の2点パデ近似の続きである。今回の記事では特異点の取り扱い方について説明する。

 

sky-time-math.hatenablog.jp

特異点は、もしあれば、関数の振る舞いを大きく特徴づける重要な情報である。そこで、今回は関数f(x)自然数のべきの孤立特異点*1を持つ場合、すなわち、x=x_1,x_2,\cdots,x_m

f(x)\rightarrow \frac{A_j}{(x-x_j)^{n_j}} (x\rightarrow x_j)

となる場合を考える。このとき、

g_*(x):=f(x)-\sum_{j=1}^m \frac{A_j}{(x-x_j)^{n_j}}

は、x=\inftyを除いて特異点を持たないので、

g_*(x)の漸近展開を

g_*(x)\sim g_0(x) +O(g_0(x))(x\rightarrow 0)

g_*(x)\sim g_\infty(x) +o(g_\infty(x))(x\rightarrow \infty)

と計算する。ここで、パデ近似を適用するために多項式型の因子を引き出して、

g_*(x)=:\frac{1}{\prod_{j=1}^m(x-x_j)^{n_j}}g(x)

とすると、g(x)x=\pm \infty以外で、特異点を持たない。

g(x)に対する2点パデ近似をG(x)とすると、f(x)特異点を考慮した2点パデ近似F_*(x)は、

F_*(x)=\sum_{j=1}^m \frac{A_j}{(x-x_j)^{n_j}}+\frac{G(x)}{\prod_{j=1}^m(x-x_j)^{n_j}}

となる。ここで、c_jは、各特異点での発散のスピードA_jを再現するように決定する。

詳しくは、拙著、多点総和法入門を読んでいただきたい。

 

 

実際の例

それでは、前回の記事で2点パデ近似を適用した関数f(x)に対して、

f(x)=\frac{2+3x+4x^2+5x^3+6x^4}{1+x+x^2+x^3}

その特異点

f(x) \sim \frac{2}{x+1} (x\rightarrow -1)

を取り入れた2点パデ近似*2を実際にやってみよう。まず、関数g_*(x)の2点での漸近展開は

g_*(x)\sim −\frac{2}{x+1}+2+x+x^2+O(x^3) (x\rightarrow 0)

=\frac{2}{x+1}(\frac{3}{2}x+x^2+\frac{1}{2}x^3+O(x^4)) (x\rightarrow 0)

g_*(x)\sim \frac{2}{x+1}(3x^2+\frac{5}{2}x-\frac{3}{2}+o(1)) (x\rightarrow 0)

ここで、 特異点の因子\frac{2}{x+1}を除いてx\rightarrow \inftyでの項を分離すると、

G(x)\approx (3x^2+\frac{5}{2}x-\frac{3}{2})+(\frac{3}{2}-x-2x^2+\frac{1}{2}x^3)

となるので、2点パデ近似はパデ近似[1/2]を第二項に適用して、

G(x)\approx (3x^2+\frac{5}{2}x-\frac{3}{2})+\frac{48-47x}{36x^2-10x+32}

となる。これは、次の漸近展開を持つ。

G(x)=\frac{3}{2}x+x^2 +\frac{1}{2}x^3+O(x^4) (x\rightarrow 0)

G_(x)\sim 3x^2+\frac{5}{2}x-\frac{3}{2}x+o(1) (x\rightarrow 0)

 これを用いて、特異点を取り入れた2点パデ近似F_*(x)は、

F_*(x)=\frac{2}{x+1}+\frac{2}{x+1}G(x)

=\frac{2}{x+1}(3x^2+\frac{5}{2}x-\frac{1}{2} +\frac{48-47x}{36x^2-10x+32} )

となる。この関数は次の漸近展開を持つ。

F_*(x)\sim 2+x+x^2+O(x^3) (x\rightarrow 0)

F_*(x)\sim 6x-1 +o(1) (x\rightarrow \infty)

ここで、注意しなければいけないのは、

lim_{x\rightarrow -1} F_*(x)\frac{x+1}{2}=\frac{95}{78}

となり特異点の振る舞いを完全には取り入れきれないことである。ただ、x=-1で係数2に近い値で発散することのみ記述されている。

それでは、特異点を取り入れた2点パデ近似をプロットしたものを見てみよう。

f:id:FoxQ:20200721172048p:plain

今回は、x=-1以外の特異点がたまたま存在せず、特異点を取り入れた2点パデ近似が非常によい近似となっていることがわかる。

*1:有理数の場合も変数変換を用いれば同様の解析が可能である。

*2:特異点も入れているので、3点パデ近似と呼んでもいいかもしれない。