流れる空の中で数学を。

とある数学好きの「手作りすうがく」と「気ままな雑記」。

【その1】2点漸近展開に対する総和法【多項式型】

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2点での漸近展開

この記事に続く一連の記事で、ある実関数f(x)x=0x=\inftyでの漸近展開がそれぞれ得られた時の総和法を紹介する。すなわち、

f(x)\sim f_0(x)+o(f_0(x)) (x\rightarrow 0)

f(x)\sim f_\infty(x)+o(f_\infty(x)) (x\rightarrow 0)

という漸近展開が与えられた時、与えられた情報の範囲でこれを再現するような簡単な関数F(x)を見つけることを目的とする。この手法は、僕が博士論文を書く時に開発した手法をより簡単にしたものや一般化したものにあたる。基本的な発想は今回の記事を読んでもらえればわかると思うが、今後このシリーズを通して、様々な応用が可能な有用な手法であることをお見せしたい。

詳しくは、拙著、多点総和法入門を読んでいただきたい。

 

 

2点パデ近似

今回紹介する最も簡単な方法を、「2点パデ近似」と名づけることにする。今回はさらにx\rightarrow \inftyでの漸近展開が多項式で与えられる場合を考える。

つまり、関数f(x)の漸近展開が、

f(x)\sim a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_nx^n+O(x^{n+1}) (x \rightarrow 0)

f(x)\sim b_mx^m+b_{m-1}x^{m-1}+\cdots b_lx^l+o(x^l) (x \rightarrow \infty)

 で与えられる場合を考える。そして、この2点での漸近展開を同時に再現する簡単な関数を総和法の一種であるパデ近似を駆使して見つける。以下、それぞれの多項式部分をf_0(x),f_\infty(x)とおくと約束する。

漸近項の分離

近似する関数をまずは、

F(x)\approx f_\infty(x)+(f_0(x)-f_\infty(x))

と表し、第二項を分子がN多項式で、分母がM多項式のパデ近似[N/M](x)で近似する。すると、

F(x)\approx f_\infty(x)+[N/M](x)

 ここで、

N-M \lt l

となるようにパデ近似の次数を選ぶと、x\rightarrow \inftyでの漸近展開は明らかに

F(x)\sim f_\infty(x)+o(x^l) (x\rightarrow \infty)

 となる。また、パデ近似は、x\rightarrow 0での展開を与えられた次数まで再現する近似なので、x\rightarrow 0での漸近展開は、当然

F(x)\sim f_0(x)+O(x^{n+1}) (x\rightarrow \infty)

 となる。

練習として、

f(x)=\frac{2+3x+4x^2+5x^3+6x^4}{1+x+x^2+x^3}

の場合をやってみせよう。この関数を特徴づけるパラメータは8個である。つまり、この関数を近似するより簡単な式を見つけたい。

この関数の2点での漸近展開を2次までとるとすると、

f(x) \sim 2+x+x^2 +O(x^3) (x\rightarrow 0)

f(x) \sim  6x-1 +o(1) (x\rightarrow \infty)

となる。まず、それぞれのグラフを見てみよう。

f:id:FoxQ:20200721205847p:plain

f(x)とその漸近展開

黒線が関数f(x)で、青と緑がそれぞれ、x=0,\inftyにおける漸近展開を有限次で打ち切った近似である。各漸近展開が、それぞれの展開点から離れるに従って、破綻するのがみてとれるだろう。

まずF(x)

F(x)=(6x-1)+\{(2+x+x^2)-(6x-1)\}

=(6x-1)+(3-5x+x^2)

ここで、o(1)となるような第二項のパデ近似は[0/2](x)である。実際に、Wolfram AlphaMapleなどを使って計算すると、

F(x)\approx 6x-1 +\frac{27}{22x^2+15x+9}

となる。このようにして、関数f(x)の2点までの漸近展開を2次まで再現する関数を得ることができた。実際にプロットした図を見てみよう。赤色の線が2点パデ近似F(x)である。

f:id:FoxQ:20200721144928p:plain

2点パデ近似(x=0~3)

このように、x=0,\inftyの両方で大きく破綻することないよい近似を与えていることがわかる。

特異点

さて、今回得た近似F(x)はパデ近似を用いているが特異点をたまたま持たない*1。ところが元の関数f(x)特異点を持つ。実際にどうなっているか見てみよう。

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2点パデ近似と特異点

このように単純な総和法を用いると、特異点を再現することに失敗する。次回の記事では、特異点を再現する2点パデ近似を紹介する。

 

sky-time-math.hatenablog.jp

 

*1:一般には2点パデ近似は特異点を持つ。そのため、連続関数を近似したい場合、更にボレル総和法と組み合わせた2点ボレル-パデ近似(僕が名づけた)を用いる必要がある。