流れる空の中で数学を。

とある数学好きの「手作りすうがく」と「気ままな雑記」。

【数学との関わり】臨界現象研究の今後について思うこと【臨界指数至上主義について】

臨界現象とは

臨界現象については、以下の文献で簡潔にまとめられている。

dl.ndl.go.jp

特に、臨界現象とは、

①「物質が相転移を起こす際に様々な熱力学関数が特異性を示す」

②「異なった系での臨界現象が共通の臨界指数を持つという普遍性」

という2点が面白いと言及されている。

 

くりこみ群と臨界指数

モデル計算と組み合わせにより、数値計算で臨界指数を見積もることが可能である。特に、アンダーソン転移では臨界指数が有効数字3~4桁程度まで求められている*1

ここで使われるテクニックは、物理量を有限系で計算して、有限サイズスケーリングと呼ばれるくりこみ群の手法を用いて、臨界指数を見積もることである。

そこで、行われていることは、本質的には、

①臨界点の発見

②物理量の計算

③スケーリング関数(くりこみ群の理論から得られる)へのフィッティング

である。特に、③はフィッティングパラメータに臨界指数を含むので、臨界指数が見積もられるという仕組みである。

 

共形場理論について

僕は共形場理論についてほとんどしらないが、3次元系の場合に臨界現象を対称性で分類して、ハミルトニアンを用いずに(従って、普遍性の説明が可能となる)臨界指数を見積もるテクニックという程度の認識である。実際の、共形場理論が僕が知る以上に豊なものであるのなら、それを知っている人は僕に教えてほしい。

 

臨界現象研究のこれからについて思うこと

①「物質が相転移を起こす際に様々な熱力学関数が特異性を示す」

②「異なった系での臨界現象が共通の臨界指数を持つという普遍性」

が臨界現象の研究における基本的な問題意識として長年この2つの事象を説明することに労力が割かれてきた。

 

ところがおちついて考えてみてほしい。臨界指数とは所詮数のペア(仮に、\mu,\nuと呼ぼう)にすぎない。

数のペア、しかも実数値の組に対して、何か意味があるか考えられるだろうか?

おそらくまず最初に返ってくるのは、臨界指数は臨界現象としてのハミルトニアンの分類を行うための、特徴量の代表系をなしているという返答だろう。

では、ハミルトニアンの分類ができたとしよう。ここで僕は新たに問いたい。

 

なぜ、そのような分類が可能になったのか?

なぜその実数でなければならなかったのか?

普遍的構造の物理現象は臨界指数だけなのか?

 

僕は、これらの質問に立ち向かうことこそが、これからの臨界現象の研究にとって本質的に重要になってくると考えている。

なぜなら、系の対称性ごとに臨界指数を求めるという目的はおおよそ(ゆるく考えれば)達成されたといってもよく、問題は臨界指数の見積もりの精度を上げることではないからである。実際、アンダーソン転移では実数次元*2での臨界現象を考えることができ、臨界指数は連続的に変化する量と言える。

このような状況であるからこそ、臨界指数をある一つの次元で見るのではなく、次元に依存した関数とみなすことが重要だと言える。

そのような状況では、次元をパラメータにもったなんらかの数学的対象物が臨界現象の研究に必要なのは明らかである。

続けよう。

臨界現象の研究と数学

これまで臨界現象の研究は、物理学者主体で行われてきた。ところが、普遍性すなわち「異なるものを同じものとみなす技術」は本来数学が得意とする分野のはずである。

そのため、臨界現象のトポロジー論的な理解が可能なのではないかと想像できる。

他には、臨界指数とζ関数が関係を持つことは、例えば氷上忍先生の研究で明らかになっている。(Localization, Nonlinear σ Model and String Theory | Progress of Theoretical Physics Supplements | Oxford Academic)

そのため、数論と臨界現象の相互理解が可能ではないかと予想される。

どちらも、まだおそらく手つかずの領域ではあるが、本来臨界現象を理解しようとするならば、このような方向性で行くのが正しいように思える。

 

僕の研究について

僕はStatistical Random Walk Summation(SRWS) theory*3 というものをアンダーソン転移(Orthogonalクラス)の場合に構成した。

 

vixra.org

それにいくらかの近似を施すと、局在長の臨界指数\nuが、第一近似で

\nu(d)=\frac{1}{2}+\frac{\zeta(d/2)\zeta(d/2+2)-\zeta(d/2+1)^2}{\zeta(d/2+1)\zeta(d/2+2)}

と表されることを示した。

この式からわかることは、下部臨界次元d=2で臨界指数が発散するのはζ関数が発散するため、すなわち素数が無限に存在することに由来すると説明できる。

逆に、臨界指数からζ関数を理解できる可能性もわずかに見えてくる。物理学と数論の交流というわけだ。

特に、局在長\xiがあたかもヘルムホルツ自由エネルギーのように見なせて、

\xi\simeq \frac{1}{distance}\ln \Phi(a,d/2,|x-y|+1)

と表せることである。ここで、\Phiはζ関数の一般化であるレルヒ超越関数でありdは次元である。この超越関数が統計力学で最も重要な分配関数のアナロジー部分に現れることは驚きである。

このように、ζ関数のある種の一般化が分配関数に対応し、臨界現象を引き起こしていると考えると数学・物理学双方にメリットのあるものの見方であると考えられる。

 

まとめ

従来、臨界現象の研究は

①臨界点での物理量の特異性

②臨界指数の普遍性

の2点に注目が集まり過ぎていた*4

ところが、これからの臨界現象の研究は次のように変わるべきである。

①臨界現象の研究は、臨界指数の(実数)次元依存性に基づいて行われるべきである。

②臨界現象の普遍性に対する数学側からの説明が可能なのではないか?(トポロジーなど)と問うべきだ。

③臨界現象は数論と根本的な部分でつながっているのではないか?と問うべきだ。

これら3つの点をあげてこの記事を終わりにしたい。