流れる空の中で数学を。

とある数学好きの「手作りすうがく」と「気ままな雑記」。

【問Ⅰ】ぺるせんたげさんの数学コンテスト

追記(2018/10/31):解法は本質的に変わりませんが、(5)式まわりを微妙に修正しました(lの値のとる範囲等を変更しました)。

ぺるせんたげさんの数学コンテストの問Ⅰ

 今回も前回に引き続き、ぺるせんたげさん(@percentage011)の数学コンテストの問Ⅰを解いていきたいと思います。

もし、間違っていたり、解答が不十分だったら優しく教えてくださると助かります。

一回微分からはじまってわかること

 問題は、次の関数f_n(x)k微分せよというもの。

f_n(x)=e^{nx+e^x}……(1)

 いきなり、k微分するのはきびしそうなので、1回微分してみる。合成関数の微分公式より、

\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x} f_n(x) = [ \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x} (nx +e^x) ] e^{nx+e^x}
=  (n +e^x) e^{nx+e^x}
= n e^{nx+e^x}+ e^{(n+1)x+e^x}
= n f_n (x) + f_{n+1}(x)……(2)

この式を観察すると、n多項式を係数とするf_j(x)の和の形(jは整数)になっていることがわかる。この構造は、繰り返し微分しても明らかに変わらない。また、k微分したときに出てくるf_j(x)j=n,\cdots,n+kであることもただちにわかる。k微分したときのf_{n+k}(x)の係数が1であることもすぐにわかる。
 したがって、k微分した時の関数形は、ある多項式A_{l,k}(n)を用いて、次のように表せることがわかる。*1

\frac{\mathrm{d}^k}{\mathrm{d}x^k} f_n(x) = \sum_{l=0}^{k} A_{l,k}(n) f_{n+l}……(3)

 以下では、このA_{l,k}(n)を求めていく。これが求まれば、f_n(x)k微分が求まり、問題が解けたことになる。

A_{l,k}(n)の漸化式

 まず、A_{l,k}(n)に関する漸化式を求めるために、(3)式をもう1回微分してみる。

 \frac{\mathrm{d}^{k+1}}{\mathrm{d}x^{k+1}} f_n(x) = \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x}\sum_{l=0}^{k} A_{l,k}(n) f_{n+l}
= \sum_{l=0}^{k} A_{l,k}(n) \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x} f_{n+l}……(4)

 ここで、(2)式より、1回微分の箇所は計算できて、

 \frac{\mathrm{d}^{k+1}}{\mathrm{d}x^{k+1}} f_n(x) = \sum_{l=0}^{k} A_{l,k}(n) [ (n+l)f_{n+l} +f_{n+l+1} ]
= nA_{0,k}(n) f_n + \sum_{l=1}^{k} [ (n+l) A_{l,k}(n) + A_{l-1,k}(n)] f_{n+l}  +f_{n+k+1} ……(5)

と求まった。上式と、(3)式でk+1と置き換えたものと比較することで、

A_{l,k+1}(n)=(n+l) A_{l,k}(n) +A_{l-1,k}(n)……(6)

を得る。ここで、kk-1に置き換えて、l=1,\cdots,k自然数kに対して、

A_{l,k}(n) =(n+l) A_{l,k-1}(n) + A_{l-1,k-1}(n)……(7)

というA_{l,k}に対する漸化式を得た。

数列A_{l,k}(n)から母関数へ

 A_{l,k}(n)の漸化式(7)を直接解くのは難しそうなので、次のように母関数B_{l,n}(x)を定義する。

B_{l,n}(x)=\sum_{k=0}^{\infty} A_{l,k}(n) x^k……(8)

 漸化式(7)を用いて、母関数を求めていきたい。準備として、(n+l)xB_{l,n}(x)xB_{l-1,n}(x)を計算しておく。

(n+l)xB_{l,n}(x)=\sum_{k=0}^{\infty}(n+l) A_{l,k}(n) x^{k+1}
=\sum_{k=1}^{\infty}(n+l) A_{l,k-1}(n) x^{k}……(9)

xB_{l-1,n}(x)=\sum_{k=0}^{\infty} A_{l-1,k}(n) x^{k+1}
=\sum_{k=1}^{\infty} A_{l-1,k-1}(n) x^{k}……(10)

 次は、(8),(9),(10)式を使って母関数を求めていく。漸化式(7)を用いることで、

B_{l,n}(x)-(n+l)xB_{l,n}(x)-xB_{l-1,n}(x)
=A_{l,0}(n) + \sum_{k=1}^{\infty} [ A_{l,k}(n) - (n+l) A_{l,k-1}(n) + A_{l-1,k-1}(n)]x^k
=A_{l,0}(n)……(11)

ここで、(3)式でk=0とおくことで、すなわち0回微分を考えることで、

A_{l,0}(n)=\delta_{l,0}……(12)

とわかる。ここで、\delta_{l,0}クロネッカーのデルタである。(11)式を整理して、

 [1-(n+l)x ]B_{l,n}(x) = \delta_{l,0} + x B_{l-1,n}(x) ……(13)

 ところで、(2)(3)(5)式から、明らかに

A_{0,k}(n)=n^k……(14)

であるので、B_{0,n}(x)は、

B_{0,n}(x)=\sum_{k=0}^{\infty} A_{0,k}(n)x^k
=\sum_{k=0}^{\infty} (nx)^k
=\frac{1}{1-nx}……(15)

と求まる。(13)式でl \ge 1 の場合を考えると、\delta_{l,0}=0となるので、

B_{l,n}(x) = \frac{x}{1-(n+l)x} B_{l-1,n}(x)
=\frac{x}{1-(n+l)x}\frac{x}{1-(n+l-1)x}B_{l-2,n}(x)
=\cdots
=\frac{x}{1-(n+l)x}\frac{x}{1-(n+l-1)x} \cdots \frac{x}{1-(n+1)x} B_{0,n}(x)……(16)

 よって、(15)式より、母関数B_{l,n}(x)が、

B_{l,n}(x) = x^l \frac{1}{1-(n+l)x}\frac{1}{1-(n+l-1)x} \cdots \frac{1}{1-nx} ……(17)

 と求まった。

母関数B_{l,n}(x)から係数A_{l,k}(n)を取り出す

  後は、母関数を再びxの冪で展開してその係数を調べれば、母関数の定義式(8)よりA_{l,k}が求まる。そのために、任意の自然数aに対して成り立つ次の展開式を用いる。

\frac{1}{1-ax}=\sum_{k=0}^{\infty} a^k x^k……(18)

 この展開を(17)式に適用すると、

B_{l,n}(x) = x^l [ \sum_{{k_l}=0}^\infty (n+l)^{k_l} x^{k_l}  ] \cdots [ \sum_{{k_0}=0}^\infty n^{k_0} x^{k_0}  ]……(19)

 ここで、無限和をとる変数はk_0からk_lまでのl+1個ある。(19)式のx^lを除く因子をかけ合わせて、x^kの係数にまとめ直すと、

B_{l,n}(x) = x^l \sum_{k=0}^{\infty} [ \sum_{k_0 + \cdots + k_l = k} n^{k_0}\cdots(n+l)^{k_l}  ] x^k
=  \sum_{k=l}^{\infty} [ \sum_{k_0 + \cdots + k_l = k-l} n^{k_0}\cdots(n+l)^{k_l}  ] x^k ……(20)

となる。ここで、内側の総和は、k_0からk_lまでの和が条件を満たすような0以上の整数の組み合わせ全てについてとる。この式を母関数の定義式(8)と比較して、

A_{l,k}(n) = \{ 0 \qquad ( l \gt k)
                  \{ \sum_{k_0 + \cdots + k_l = k-l} n^{k_0}\cdots(n+l)^{k_l} \qquad (0 \le l \le k)……(21)

が得られた。上式に現れる総和は、l+1個の整数k_0,\cdots,k_l(\ge 0)に対して、条件を満たすもの全てについてとる。
 以上より、(3)式に戻るとその展開係数が全て求まったことになるので、f_n(x)k微分が求まった。

*1:以降、f_n(x)を単にf_nと変数を省略して書く場合があることを注意しておく。